
人が学習するという行為に関して、脳がどのように機能するのか、それをもって学習効果や能率を高めるためにはどのように脳に働きかけたらよいのか、特に幼児期から青年期にかけた子ども時代の教育を脳サイドからアプローチする考え方を科学的、医学的見地に基づいて研究する機関として
「学習脳科学研究所」を設立いたしました。
●今までの教育において一番欠落していたことは、脳に着目していくこと、すなわち脳の機能に焦点を当てて子どもの教育を行っていくことでした。昔は残念ながら、脳の機能については全くわかっていませんでした。脳を知るということは、その中で行われている神経細胞どうしの情報のバトンタッチを知ることが重要なのですが、我々医師ができたことというのは脳の形を見ることのみでした。その上、脳のいろいろな領域は、そのどれもが見た目はほとんど同じなため、形がわかったとしてもどこで何をしているかということまではわかりませんでした。子どもの教育に対して、脳からアプローチをしたいと考えた人も多かったと思いますができなかったのです。最近になり、やっと観測技術が発達して、脳がどのように働いているのかを計測することができるようになりました。おかげで、急速に脳科学が発達してきており、私たちの脳の機能をどのようにアップさせていくのかという、大まかな方向性やテクニックについて、科学的にこれが正しいか間違っているかということもだんだんわかってきました。
●いま、これを一番応用しなければならないのが子どもの脳です。脳には可塑性、すなわち外からのいろいろな刺激を受けて、自分でものを考えて成長していく性質があります。誕生してから、両親を中心に他者との触れ合いの中で言葉を覚え、いろいろなことを感じ取りあいながら心を育み、年齢とともに難しいことも論理的に考えることができる能力を身に付けていくのです。この外側からの刺激を受けて、自分で物ごとを考えて成長していく機能というのは、生まれた時には無限の可能性を持っているのです。しかし、成長するとともに、つまり脳の発達に従ってその方向性はだんだん限定されてしまいます。そういった点から見ても、小・中・高校生という子どもの時代に、今の脳科学に沿った教育を行っていくことが重要といえます。
●また、人にはそれぞれの性質があります。子どもであっても、顔、表情が違うようにいろいろな個性を持っています。それと同様に、脳にも個性があります。子どもが成長するにつれ、日常生活の中で「この子はちょっと気が強い」「優しい子だ」などという性質がわかりますが、これもそれぞれの脳の個性がつくりだしているものなのです。教育で大切なのは、それぞれの脳のタイプに合わせて、いい点をどんどん伸ばして、欠けている点は補ってあげることです。本来、教育というのは子ども一人ひとりに合わせる、つまり子ども一人ひとりの脳に合わせることが必要なのです。この2点をふまえて教育について考えることが大切だと思います。
●ここで誤解をしていただきたくないのは、脳が重要ですよというと、臓器としての脳のみに関心が向いてしまい、心や人との触れ合いについておろそかにしているのではないかと思われがちですが、むしろ逆なのです。人との触れ合いというのはそれを感じ取る部分=大脳辺縁系が刺激を受けているということで、人との触れ合いを持つと神経細胞の中をインパルス(電気刺激)が流れます。昔、脳のことがよくわからなかった時代というのは、単に情報を子どもの頭の中に詰め込めばよいというものでした。しかし近年、ひとつのことを教えるにあたっても、そこに両親や先生といった人間関係が介在し、心・感情がこもっているほど、すなわち刺激を受けている状態があるほど、勉強にかぎってみてもその定着率が高くなることがわかっています。だからこそ、脳に着目することは、子どもの気持ち・感情・人との触れ合いを大事にすることと同じだと思っていただきたいのです。
学習脳科学研究所所長 ■医学博士 吉田たかよし
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